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函館家庭裁判所 昭和51年(少)1103号 決定

少年 M・O(昭三六・八・三生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五一年三月五日、当裁判所において窃盗同未遂保護事件について函館保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、同所の保護観察を受けているものであるところ、同所が定めた特別遵守事項(1共犯者と付合わないこと。2他人の物には手を出さないこと。3目標を立て、それに向つて努力すること。4担当保護司を訪問して指導を受けること。)を積極的に守らず、学校の怠学を繰返し、同年一〇月からは数回家出し、寺社の境内などに野宿し、保護司、保護観察官あるいは父親の注意を受けいれず、その性格及び環境に照らして将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞れがある。

(適用法条)

少年法三条一項三号イ、ロ、ニ

(初等少年院送致の理由)

1  少年は、実父M・Kの長男(姉三名、妹一名)として出生し、函館市内の小学校に通学し、昭和四九年三月、小学校を卒業し、同年四月、同市内の中学校に入学したが、同年五月に実母が心臓発作で死亡した後、姉達が少年と共に居住していないこともあつて実父が働きに出たのちは監督者がおらず、急激に怠学が多くなり、不良交遊も始まり、友人と前件非行の窃盗行為を数回繰返えして、昭和五一年三月五日、保護観察に付された。しかし、その後も生活の濫れはなおることなく、窃盗行為こそなくなつたが、気分次第ですぐに怠学を繰返し、保護観察官が朝、家まで迎えに行くとやつとのことで通学するという状態であつた。このような状態の中で少年の生活態度はますます崩れるようになり、同年一〇月からは特に理由がないにもかかわらず家出を繰返し、空屋で焚火をするなどの危険な行為までするようになり、観察官のすすめで新聞配達をするようになつたが、耐性がなく長続きしなかつた。このようにして、現段階において、少年に基本的な社会的躾けを身に付けさせることは急務であるといわねばならない。

2  少年の知能は、I・Q=八五で準普通域ではあるものの、知的訓練の機会に恵れず、勉強嫌いのため、基礎学力は低く、能力開発の必要性は大きいといわねばならない。その性格においても、自信の乏しい、消極的な面をもち、対人関係においても積極的に自己主張をするということは少なく、表面上だけ人に調子を合わせることで順応しており、信頼関係への発展がなく、そして母親がいないこともあつて愛情不充足感、監督の弱体から家出、怠学を急増してきたものであり、その性格面の欠点の矯正が必要であると共に、社会的躾けを身につけさせる場を提供することが必要である。

3  少年の家庭環境は、少年の前記欠点を矯正するには不適当である。即ち、実父は仕事の関係から昼間は全く少年を監督することはできず、また積極的に少年と接触して心の繋りを持つ努力はしておらず、前述のように姉はいずれも少年と離れて住んでおり、監督するだけの余裕はない。また、実父は今回においては、少年に対してあきらめの気持を持つており、今後その環境が改善される見通しはほとんど認められない。したがつて、保護観察に対する少年の態度が前記のとおりである以上、もはや社会内で少年を処遇することは適切ではなく、少年を相当期間、施設に収容して厳しい矯正教育を施すことが必要であると考え、少年の年齢、生活歴、非行内容からして、少年を初等少年院に収容することが相当であると判断する。

4  よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小松峻)

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